USB PD 3.2は2023年10月に正式リリースされ、SPR AVS(Standard Power Range Adjustable Voltage Supply)機能の追加により、27W〜100Wの範囲で9Vから20Vまで100mV刻みで電圧調整が可能になりました。この技術革新により、充電効率の向上と発熱の抑制を実現し、充電体験が大きく向上しています。
はじめに:USB PD 3.2で変わる充電の常識
USB PD 3.2は2023年10月に公式リリースされ、2025年現在最新の充電規格として多くの製品で採用が進んでいます。従来の固定電圧による充電から、デバイスの充電ニーズに合わせた精密な電圧調整が可能になったことで、充電効率の大幅な改善を実現しています。
本記事では、USB PD 3.2の技術的な特徴から対応製品の選び方まで、最新の認証情報や業界動向を踏まえて詳しく解説します。
USB PD 3.2の革新的な新機能|SPR AVSとは何か?
SPR AVSの技術仕様と従来規格との違い
USB PD 3.2では、SPR(Standard Power Range)でAVS(Adjustable Voltage Supply)が必須要件となり、27W以上の電力供給を行う機器では対応が義務付けられています。
SPR AVSの電圧調整範囲
- 27W ≤ PDP ≤ 45W:9Vから15Vまで100mV刻みで調整(従来比59の電圧オプション追加)
- 45W ≤ PDP ≤ 100W:9Vから20Vまで100mV刻みで調整(従来比108の電圧オプション追加)
PPSとAVSの違いを理解する
PPSが20mV刻みで電圧・電流を両方調整できるのに対し、AVSは100mV刻みで電圧のみを調整する仕組みです。PPSがリアルタイムでのバッテリー追従充電に特化しているのに対し、AVSはより安定したシステム効率の向上を目的としています。
| 機能 | PPS | SPR AVS |
|---|---|---|
| 電圧刻み | 20mV | 100mV |
| 調整範囲 | 5V〜21V | 9V〜20V(SPR) |
| 電流調整 | 対応(50mA刻み) | 非対応(固定) |
| 主な用途 | リアルタイムバッテリー追従 | システム効率向上 |
| 対応要件 | オプション | 27W以上で必須 |
USB PD 3.2がもたらす実用的なメリット
充電効率の大幅向上
SPR AVS技術により、デバイスは9Vから20Vの範囲で100mV刻みで最適な充電電圧を要求でき、より効率的な電力変換と発熱の削減を実現しています。
具体的な改善効果
- 充電速度:従来モデル比で最大30%の高速化
- バッテリー寿命:約20%の延長効果
- 発熱抑制:充電時の温度上昇を大幅に削減
- エネルギー効率:変換ロスの最小化による省エネ効果
マルチポート充電器の進化
USB PD 3.2では、マルチポート充電器向けのShared Capacity(共有電力)機能も強化され、複数ポートでの効率的な電力配分が可能になりました。
共有電力の配分方式
- 高優先度配分:最初に接続されたポートが最大電力を取得
- 均等配分:2ポート使用時に各ポートで最大電力の半分ずつを配分
- 動的調整:サーマル管理や他ポートの要求に応じた電力再配分
認証とテストの最新要件|開発者が知るべきポイント
2025年の認証スケジュール
USB-IF協会は移行期間として、シリコンで18ヶ月、最終製品で24ヶ月の猶予期間を設定しており、USB PD 3.1製品の認証期限は2026年3月まで延長されています。
認証要件のポイント
- 27W超製品:SPR AVS対応が必須
- マルチポート製品:Shared Capacity Interoperability Test追加
- テスト項目:2024年第3四半期からAVSテスト手順が更新
- VIFファイル:最新バージョンでの作成が必要
Fast Role Swap(FRS)の強化
USB PD 3.2では、電源側の変化時にデバイス間の役割を素早く切り替えるFRS機能が強化され、電源供給の安定性と継続性が向上しています。
対応製品の現状と選び方ガイド
2025年の対応製品動向
Apple iPhone 17シリーズがUSB PD 3.2 SPR AVSを採用した最初のスマートフォンとなり、40W Dynamic Power Adapterにより60Wのピーク電力に対応しています。
対応製品カテゴリ
- スマートフォン:iPhone 17シリーズが先行採用
- 充電器:Apple 40W Dynamic Power Adapterなど
- ノートPC:高性能モデルでの採用が拡大中
- モバイルバッテリー:次世代製品での対応開始
製品選択のチェックポイント
充電器選びの重要項目
- 電力要件の確認:デバイスの最大対応電力を確認
- ポート数の選択:同時充電するデバイス数に応じた選択
- 認証マークの確認:USB-IF認証済み製品を選択
- 将来性の考慮:USB PD 3.2対応の有無
よくある質問|USB PD 3.2の疑問を解決
Q: 既存のUSB PD充電器は使い続けられますか?
A: USB PD 3.2は下位互換性を維持しているため、既存のUSB PD充電器も引き続き使用可能です。ただし、SPR AVSの恩恵を受けるには対応充電器が必要です。
Q: USB PD 3.2対応ケーブルは特別なものが必要ですか?
A: USB PD 3.2では、E-marker ICを内蔵したUSB-Cケーブルが必要で、電力範囲に応じて3A対応または5A対応ケーブルを選択する必要があります。
Q: PPS対応製品とAVS対応製品のどちらを選ぶべきですか?
A: 用途により選択が異なります。リアルタイムでの最適化充電を重視するならPPS、システム全体の効率向上を重視するならAVS対応製品がおすすめです。
まとめ:USB PD 3.2で始まる次世代充電体験
USB PD 3.2は、SPR AVS機能の導入により充電技術の新たな段階を切り開きました。27W以上の機器でのAVS必須化、精密な電圧制御による効率向上、マルチポート対応の強化など、ユーザー体験の大幅な改善を実現しています。
今後の展望
- 2025年以降、より多くの製品でUSB PD 3.2対応が進展
- 認証テストの自動化により、より厳格な品質管理を実現
- エコシステム全体での互換性向上により、充電器の共通化が加速
USB PD 3.2対応製品の選択時は、将来性と互換性を考慮し、認証済み製品を選ぶことで、最新の充電技術の恩恵を最大限に活用できるでしょう。







