Society 5.0は、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会として、2016年に日本政府が提唱した革新的な未来社会構想です。AIやIoT、ロボット技術を駆使して少子高齢化や環境問題などの社会課題を解決しながら、誰もが豊かで快適な生活を送れる社会の実現を目指しています。2025年現在、技術の社会実装は着実に進んでおり、さらに高度な技術の実現に向けた実証実験なども日々行われています。
Society 5.0とは何か？基本概念と社会発展の系譜
Society 5.0の定義と読み方
読み方は、ソサイエティゴーテンゼロと読みます。狩猟社会（Society 1.0）、農耕社会（Society 2.0）、工業社会（Society 3.0）、情報社会（Society 4.0）に続く新たな社会として位置付けられています。
Society 5.0の特徴は、これまでの情報社会とは根本的に異なる点にあります。これまでの情報社会（Society 4.0）では、社会での情報共有が不十分であったが、Society 5.0で実現する社会では、IoTで全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有されることで、新たな価値創造を可能にします。
人類社会の発展段階
Society 1.0から5.0までの発展の流れを整理すると次のようになります：
- Society 1.0（狩猟社会）: 空腹を満たすために野生動物の狩猟・捕獲や木の実・貝などの採集をしていた時代
- Society 2.0（農耕社会）: 縄文時代にはすでに農耕が始まっていたとされています。今から約3000年前といわれています
- Society 3.0（工業社会）: 18世紀後半にイギリスで起こった産業革命がきっかけで始まった大量生産の時代
- Society 4.0（情報社会）: インターネットの普及によってデジタル化が進んだ現在の社会
- Society 5.0（超スマート社会）: AIやIoTによってサイバー空間とフィジカル空間が融合する未来社会
Society 5.0が解決を目指す社会課題
少子高齢化による人手不足の深刻化
日本は2019年9月の時点で65歳以上の高齢者の人口割合は全体の28.4％を占めており、日本は世界で最も高齢化率が高い国とされています。この状況により、医療・介護の需要が高まり医師の高齢化や医療従事者の人手不足が深刻化してくると予想されています。
地域格差と過疎化問題
東京や埼玉などの関東圏では人口が増加している一方で、一部の地域では人口の減少が著しいのが現状です。人口減少により地域の財政力が低下し、公共サービスも十分に提供できない悪循環が生じています。
エネルギー・環境問題
地球温暖化の主な原因とされる温室効果ガス（GHG）の削減は、Society 5.0で解決できるとされる社会的課題の一つです。環境省によると、2019年の日本のGHGの排出量は12億1,300万トンで、世界有数の排出国となっています。
食料問題と農業の課題
人手不足、高年齢化、異常気象などの問題点が多い農業分野でも、Society５.０の恩恵が期待できます。生産数の約3分の1が食品ロスになっているのに、食糧難民が世界には数億人いるという深刻な状況があります。
Society 5.0を支える4つの核心技術
IoT（Internet of Things）
IoTとは「Internet of Things」の略称で、モノのインターネット、すなわちあらゆるモノがインターネットに接続され、相互に情報をやり取りする仕組みを指します。スマートロック（スマートフォンで開錠・施錠可能な鍵）が挙げられます。また、センサーにより離れた場所からモノの状態を把握する、動きを感知することも可能になります。
AI（人工知能）
人工知能と訳されるAIは学習機能を有し、必要な情報を必要なタイミングで提供できる仕組みとしてSociety 5.0の社会の実現に際して大きな期待が寄せられています。AIは膨大なデータを解析し、人間には困難な複雑な判断や予測を可能にします。
ビッグデータ
ビッグデータとは、人間では全体把握が極めて難しい膨大なデータ群を指します。Volume（量）、Variety（多様性）、Velocity（速度あるいは頻度）の「3つのV」を高いレベルで備えていることが特徴です。
ロボット技術
Society 5.0では、産業用ロボットから介護ロボット、自動運転車まで、幅広い分野でロボット技術が活用されます。これにより、危険な作業や重労働から人間を解放し、より創造的な仕事に集中できる環境が整備されます。
スマートシティ：Society 5.0の実現例
スマートシティの概念
Society 5.0の概念を都市に適用したものが、「スマートシティ」だ。スマートシティとは、ICTやIoT、AI等の新技術を活用し、都市機能を効率化・高度化することで、さまざまな社会課題の解決を図る未来都市のことを指す。
地域におけるスマートシティの取組が進むと、その地域で暮らす”人々”のまわりではさまざまな便利な”サービス”がうまれていきます。これらのサービスを支えているのはより効率的に運用するための”マネジメント”と、データ連携基盤である”都市OS”です。
国内のスマートシティ事例
柏の葉スマートシティ（千葉県）
「柏の葉スマートシティ」では、三井不動産を中心に官民学連携によるまちづくりが展開中。エネルギー自給型住宅やスマートモビリティ、健康管理サービスなど、住民のQOL（生活の質）向上を目指した施策が進められています。
横浜スマートシティプロジェクト（神奈川県）
YSCP（Yokohama Smart City Project）は、世界規模で評価される都市モデル。再生可能エネルギーの普及、家庭や企業のエネルギーマネジメント（HEMS/BEMS）導入を軸に、エコでスマートな都市を形成しています。
ウーブンシティ（静岡県）
2021年に発表されたトヨタのWoven City（ウーブン・シティ）は、自動運転・ロボット・AIを都市全体に導入する実験都市。静岡県裾野市に建設中で、完成すれば世界で最も技術集約的な都市のひとつとなる見込みです。
Society 5.0がもたらす分野別の変革
医療・介護分野の革命
我々個人の健康データ（性別・体重・血圧・血糖値…などなど）と、病院の過去の診断・治療データをビッグデータとして集積し、AIが最適な治療方法を医者・患者に示すことが可能になります。
Society 5.0では医療と介護の需要増に対応するため、オンラインによる遠隔診療や医療・介護現場におけるロボット・AIの利用を推進しています。最新技術を活用することで、社会コストの増大や人材不足といった課題が克服され、全国どこでも均一な医療を受けられるようになるでしょう。
農業分野の自動化とスマート化
ドローンなどを利用して、作物の生育状況を観察し、天候情報も取得することが可能となります。さらに市場での需要と供給の情報までキャッチし、AIが最適な解決策を提案してくれます。
スマート農業とはロボット技術や情報通信技術の活用で省力・精密化を推進する新たな農業のことで、農作業での労力の軽減と栽培技術の向上が期待されています。
エネルギー分野での最適化
気象情報、発電所の稼働状況、EVの充放電、家庭での使用状況などのビッグデータをAIで解析。的確な需要予測や気象予測をふまえたエネルギーの安定供給、水素製造や電気自動車を活用したエネルギーの地産地消、地域間での融通、供給予測に基づいた最適提案による各家庭での省エネなどが可能になります。
交通・モビリティの革新
交通事故や渋滞は依然として社会課題ですが、AIと自動運転技術の進化が有効な解決策となることが期待されています。交通事故ゼロの実現: 車載センサー、V2X（車車間・路車間通信）、AIによる高精度な状況判断により、ヒューマンエラーによる事故が大幅に削減される見込みです。
Society 5.0実現に向けた課題と問題点
セキュリティとプライバシーの懸念
多くのデータが取り扱われるSociety 5.0では、情報流出やハッキングなどの問題が深刻化する恐れもあります。現在でもさまざまなセキュリティ対策は講じられていますが、100%安全とは言い切れません。
従来はサイバー攻撃を受けても、その影響範囲は基本的にはサイバー空間に限定されていました。しかし、サイバー空間とフィジカル空間の融合を志向するSociety 5.0においては、フィジカル空間への直接的な影響も懸念されます。
デジタル格差の問題
情報技術を活用することで、社会のあらゆる分野において高度なサービスを提供できるようになる一方で、情報格差が生じることが懸念されています。特に高齢者や農村地域など、ITに疎い人々にとって、情報にアクセスすることが難しい状況が生じる可能性があります。
技術的課題とインフラ整備
Society 5.0に代表される技術のひとつにAIがあります。しかし、残念ながら、日本のITテクノロジーは世界の先端を行っているといえません。ITテクノロジーの研究に対する予算不足や人材不足がかねてから指摘されています。
インフラでは、通信速度やデータセンターの問題があります。日々収集されるデータは高速に処理されることが求められます。集めたデータを管理・保管しておく場所も必要です。
倫理的・法的・社会的課題（ELSI）
Society 5.0への移行において、新たな技術を社会で活用するにあたり生じるELSI※に対応するためには、俯瞰的な視野で物事を捉える必要があり、自然科学のみならず、人文・社会科学も含めた「総合知」を活用できる仕組みの構築が求められています。※ELSI：Ethical, Legal and Social Implications/Issues。倫理的・法的・社会的な課題。
Society 5.0の2025年現在の進捗状況
政府の取り組み
内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省は連携して「スマートシティ関連事業に係る合同審査会」を設置し、提案の公募、採択、実施について関連府省一体で取り組んでいます。
民間企業の動向
KDDIの「WAKONX」のような取り組みは、Society 5.0の実現に向ける重要な一歩だ。今後、こうした取り組みがさらに広がり、深化していくことで、私たちの暮らす都市や社会全体が、より豊かで持続可能なものとなり、人間らしさを尊重した生活環境へと進化していくことが期待されています。
2025年の実証実験と展望
最新情報から、Woven Cityプロジェクトが着実に進展していることがわかります。2025年の実証実験開始に向けて、今後さらに具体的な計画や成果が公表されることが期待されます。
Society 5.0とSDGsとの関連性
Society 5.0は、SDGs（持続可能な開発目標）の達成にも深く関わっています。Society 5.0は、SDGsの達成にも関連するため注目度が非常に高いです。スーパーシティ、スマートシティによって常にデータがAIによって解析される世界が作れると、経団連の動画の中にある自動翻訳の世界や車椅子の方がeスポーツに挑戦したりすることができるようになります。
特に以下のSDGs目標との関連が強く期待されています：
- 目標3（すべての人に健康と福祉を）：遠隔医療やAI診断の活用
- 目標7（エネルギーをみんなに そしてクリーンに）：スマートグリッドによるエネルギー最適化
- 目標9（産業と技術革新の基盤をつくろう）：IoTやAI技術の社会実装
- 目標11（住み続けられるまちづくりを）：スマートシティの実現
まとめ：Society 5.0が描く未来社会への展望
Society 5.0は単なる技術革新ではなく、人間中心の社会を実現するための新たなパラダイムシフトです。Society 5.0が目指す「超スマート社会」とは、AIやIoT、ロボットといった先端技術を社会の隅々に浸透させ、私たちの生活をより豊かで持続可能なものに変革する壮大な構想といえます。
2025年現在、これらの技術の社会実装は着実に進んでおり、さらに高度な技術の実現に向けた実証実験なども日々行われています。技術的課題やセキュリティ、プライバシーの問題など解決すべき課題は多くありますが、環境問題や少子高齢化など、現代社会が直面する多くの課題の解決にもつながることが期待される未来社会の実現に向けて、官民一体となった取り組みが続いています。
Society 5.0が完全に実現した社会では、誰もが技術の恩恵を享受しながら、人間らしく豊かな生活を送ることができるでしょう。そのためには、技術開発だけでなく、教育、法制度、社会システムの整備など、社会全体での取り組みが不可欠です。
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