法人向けVPNの導入を検討する企業にとって、適切なビジネスプランの選択は業務効率とセキュリティ確保の要となります。本記事では、VPNビジネスプランの種類から料金比較、選び方のポイントまで、企業のIT担当者が知っておくべき情報を網羅的に解説します。
はじめに：VPNビジネスプランとは何か
VPNビジネスプランとは、企業や組織向けに特化されたVPNサービスの商用プランです。個人向けプランと比較して、より高いセキュリティレベル、管理機能の充実、24時間365日のサポート体制、複数ユーザーの一元管理機能などが提供されます。
なぜ今企業にVPNビジネスプランが必要なのか
2025年現在、リモートワークの定着とサイバー攻撃の高度化により、企業のネットワークセキュリティ対策は従来以上に重要となっています。総務省の2024年通信利用動向調査によると、企業の87.3%がリモートワーク制度を導入しており、安全な通信環境の確保が経営課題となっています。
本記事で得られる価値
この記事を読むことで、以下の知識と判断基準を得ることができます：
- VPNビジネスプランの種類と特徴の理解
- 企業規模別の適切なプラン選択方法
- コストパフォーマンスに優れたサービスの見極め方
- 導入時の注意点と成功のポイント
- 最新のセキュリティ要件への対応方法
VPNビジネスプランの基本分類｜3つの主要タイプ
VPNビジネスプランは、提供形態と技術方式によって主に3つのタイプに分類されます。
Site-to-Site VPN（拠点間VPN）
拠点間VPNは、企業の本社と支社、データセンター間を安全に接続するソリューションです。専用線に比べて大幅にコストを削減でき、インターネット回線を利用して安全な通信環境を構築できます。
主な特徴：
- 拠点間の常時接続が可能
- 月額料金：10万円～50万円（拠点数により変動）
- 帯域保証型サービスが多い
- 24時間365日の監視サービス付き
Remote Access VPN（リモートアクセスVPN）
リモートアクセスVPNは、外出先や自宅から社内ネットワークに安全にアクセスするためのソリューションです。テレワークの普及により最も需要が高まっているタイプです。
主な特徴：
- ユーザー単位での課金体系
- 月額料金：1ユーザーあたり500円～2,000円
- マルチデバイス対応（PC、スマートフォン、タブレット）
- クライアントソフトの一元管理機能
Cloud VPN（クラウドVPN）
クラウドVPNは、AWS、Microsoft Azure、Google Cloud等のクラウドサービスとオンプレミス環境を接続するソリューションです。クラウドファーストの企業戦略に対応した新しいタイプのVPNサービスです。
主な特徴：
- クラウドサービスとの高い親和性
- 従量課金制が一般的
- 自動スケーリング機能
- DevOpsツールとの連携対応
企業規模別VPNビジネスプラン選択ガイド
企業規模と業務形態によって、最適なVPNビジネスプランは大きく異なります。以下は実際の導入事例に基づく選択指針です。
小規模企業（従業員数50名以下）
推奨プラン： Remote Access VPN中心の構成
小規模企業では、初期投資を抑えながら必要十分なセキュリティを確保することが重要です。クラウドベースのVPNサービスを活用することで、サーバー設置や専門人員の配置が不要となります。
具体的な構成例：
- ユーザー数：10～50アカウント
- 月額総額：1万円～8万円
- 必要機能：基本的な暗号化、マルチデバイス対応
- サポート：営業時間内のメールサポート
成功事例： 制作会社A社（従業員30名）では、リモートアクセスVPNの導入により、在宅ワーク環境下でもセキュアなファイル共有が実現し、作業効率が25%向上しました。
中規模企業（従業員数51～500名）
推奨プラン： Site-to-Site VPN + Remote Access VPNのハイブリッド構成
中規模企業では、複数拠点の接続とリモートワーカーの両方に対応する必要があります。拠点間は安定した専用回線型VPN、リモートアクセスは柔軟性の高いクラウド型VPNの組み合わせが効果的です。
具体的な構成例：
- 拠点数：2～5拠点
- リモートユーザー数：50～200アカウント
- 月額総額：15万円～80万円
- 必要機能：帯域保証、冗長化、管理コンソール
- サポート：24時間365日の電話サポート
重要な選択基準：
- 帯域保証の有無：業務に必要な通信速度が常時確保されるか
- 冗長化対応：回線障害時の自動切り替え機能があるか
- 管理機能：IT管理者による一元的なユーザー管理が可能か
- セキュリティレベル：IPSec、SSL/TLS等の暗号化レベル
大企業（従業員数500名以上）
推奨プラン： 専用型VPN + マネージドサービス
大企業では、高いセキュリティレベルとカスタマイズ性が求められます。専用の VPN ゲートウェイ構築や、マネージドサービスによる運用代行が一般的です。
具体的な構成例：
- 拠点数：5拠点以上
- リモートユーザー数：500～5,000アカウント
- 月額総額：100万円～500万円
- 必要機能：専用ハードウェア、SLA保証、カスタム開発
- サポート：専任エンジニア、オンサイト対応
VPNビジネスプラン料金比較表
主要VPNサービスプロバイダーのビジネスプラン料金を比較しました（2025年1月時点）。
| サービス名 | 小規模プラン | 中規模プラン | 大規模プラン | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| NordLayer | 7ドル/月/ユーザー | 9ドル/月/ユーザー | 要問合せ | 高速接続、専用サーバー |
| Perimeter 81 | 8ドル/月/ユーザー | 12ドル/月/ユーザー | 要問合せ | ゼロトラスト対応 |
| ExpressVPN Works | 要問合せ | 要問合せ | 要問合せ | 24時間サポート |
| CyberGhost Business | 要問合せ | 要問合せ | 要問合せ | 専用IP提供 |
| Private Internet Access Business | 要問合せ | 要問合せ | 要問合せ | オープンソース |
※価格は年間契約の場合の月額換算値です。詳細は各社の公式サイトでご確認ください。
法人VPN料金の詳細比較については、こちらの記事で詳しく解説しています。
VPNビジネスプラン選択の7つの重要ポイント
1. セキュリティレベルの確認
企業で使用するVPNでは、以下のセキュリティ要件を満たしているかが重要です：
- 暗号化方式：AES-256以上の暗号化
- プロトコル：IKEv2、OpenVPN、WireGuard等の信頼性の高いプロトコル
- 認証方式：多要素認証（MFA）対応
- ログポリシー：ノーログポリシーまたは法的要件に準拠したログ管理
2. パフォーマンスと可用性
業務効率に直結するパフォーマンス指標を確認しましょう：
- 帯域保証：業務に必要な最低速度の保証
- レイテンシ：リアルタイム通信での遅延時間
- 可用性：SLA（Service Level Agreement）99.9%以上
- サーバー立地：国内サーバーの有無と拠点数
3. 管理機能の充実度
IT管理者の運用負荷を軽減する管理機能の確認：
- 一元管理コンソール：ユーザー追加・削除、権限設定の一括管理
- 使用状況モニタリング：接続ログ、帯域使用量の可視化
- 自動プロビジョニング：Active Directory等との連携
- レポート機能：セキュリティ監査に必要なレポート出力
4. サポート体制
障害時の迅速な対応を可能にするサポート体制：
- 対応時間：24時間365日対応の有無
- 対応方法：電話、メール、チャット等の選択肢
- エスカレーション：技術者への直接エスカレーション体制
- 日本語対応：日本語での技術サポート提供
5. コンプライアンス対応
業界固有の規制要件への対応状況：
- 認証取得：ISO27001、SOC2等の第三者認証
- GDPR対応：欧州一般データ保護規則への準拠
- 業界規制：金融業界（FISC）、医療業界（HIPAA）等の規制対応
- 監査対応：内部監査・外部監査に必要な証跡提供
6. 拡張性と将来性
事業成長に対応できる拡張性：
- ユーザー数拡張：追加ユーザー数の上限と料金体系
- 機能拡張：新機能追加時の対応方針
- API提供：他システムとの連携可能性
- クラウド対応：将来のクラウド移行への対応
7. 総所有コスト（TCO）
初期費用だけでなく、運用コストも含めた総合的なコスト評価：
- 初期費用：導入時の設定費用、機器費用
- 月額費用：基本料金、従量課金部分
- 運用費用：管理工数、トレーニング費用
- 更新費用：ライセンス更新、機器更新費用
VPNビジネスプラン導入の成功事例
製造業B社（従業員200名）の事例
課題： 複数の工場拠点と本社間のデータ共有にセキュリティ上の懸念があり、専用線導入はコスト面で困難でした。
ソリューション： Site-to-Site VPNによる拠点間接続と、Remote Access VPNによる出張者・在宅勤務者への対応を組み合わせたハイブリッド構成を採用しました。
導入効果：
- 通信コスト60%削減（専用線と比較）
- セキュリティインシデント0件（導入後12ヶ月）
- リモートワーク実施率40%向上
- システム管理工数30%削減
選択のポイント： 製造業特有の機密データ保護要件に対応できる高度な暗号化機能と、工場の過酷な環境でも安定動作する冗長化構成を重視しました。
IT企業C社（従業員80名）の事例
課題： グローバル展開に伴い、海外拠点とのセキュアな通信環境整備が急務となりました。
ソリューション： クラウドベースのVPNサービスを採用し、世界各地のサーバーを活用した最適化接続を実現しました。
導入効果：
- 海外拠点との通信速度2倍向上
- 導入期間3週間に短縮
- グローバル展開の時間短縮6ヶ月
- セキュリティ監査対応時間50%削減
VPN導入時のよくある失敗パターンと対策
失敗パターン1：帯域不足による業務影響
問題： コスト重視でプランを選択した結果、ピーク時間帯に通信速度が大幅に低下し、業務に支障をきたしました。
対策：
- 事前の帯域使用量調査実施
- 帯域保証型サービスの選択
- 段階的なユーザー移行による負荷分散
失敗パターン2：管理機能不足による運用負荷増大
問題： 管理機能が限定的なサービスを選択したため、ユーザー管理や設定変更に多大な工数がかかりました。
対策：
- 管理機能の事前検証
- Active Directory連携の確認
- 自動化機能の活用検討
失敗パターン3：サポート体制の不備
問題： 障害発生時にサポート対応が遅れ、長時間の業務停止を余儀なくされました。
対策：
- SLA条件の詳細確認
- 24時間365日サポートの選択
- エスカレーション体制の事前確認
2025年のVPNビジネストレンド
ゼロトラストネットワークへの移行
従来の境界型セキュリティから、「何も信頼しない」ゼロトラストアーキテクチャへの移行が加速しています。VPNもゼロトラストの一部として位置づけられ、より高度な認証・認可機能が求められています。
SASE（Secure Access Service Edge）の普及
ネットワークとセキュリティ機能を統合したSASEソリューションが注目されています。VPN、ファイアウォール、CASB（Cloud Access Security Broker）等を一体化したサービス提供が増加しています。
AI・機械学習による脅威検知
VPNサービスにAI技術を組み合わせた異常検知機能が標準装備されつつあります。不正アクセスの早期発見や自動的な脅威対応が可能となっています。
企業VPN価格の最新動向については、こちらの詳細記事もご参照ください。
VPNビジネスプラン導入の具体的手順
ステップ1：要件定義（1～2週間）
企業の現状分析と将来計画に基づく要件定義を実施します：
- 現状調査：既存ネットワーク構成、セキュリティポリシー、利用者数
- 要件整理：必要な機能、性能要件、セキュリティレベル
- 予算設定：初期投資と運用コストの予算枠設定
- 評価基準：サービス選定時の評価項目と重み付け設定
ステップ2：RFP（提案依頼書）作成・ベンダー選定（2～3週間）
複数のVPNサービスプロバイダーから提案を受けるための準備：
- RFP作成：要件を明確化した提案依頼書の作成
- ベンダー候補：3～5社程度のサービスプロバイダーを選定
- 提案評価：技術面、コスト面、サポート面での総合評価
- POC実施：上位候補2社程度での概念実証実施
ステップ3：詳細設計・契約（2～4週間）
選定したサービスの詳細設計と契約手続き：
- ネットワーク設計：既存環境との整合性確認
- セキュリティ設計：認証方式、アクセス制御の詳細設計
- 運用設計：監視項目、障害対応手順の策定
- 契約締結：SLA、責任分界点、費用体系の最終確認
ステップ4：導入・テスト（3～6週間）
段階的な導入とテストの実施：
- 環境構築：テスト環境での動作確認
- パイロット運用：限定ユーザーでの先行運用
- 性能テスト：負荷テスト、障害テストの実施
- ユーザートレーニング：利用者向け操作研修の実施
ステップ5：本格運用・運用改善（継続）
本格運用開始後の継続的改善：
- 本格運用開始：全ユーザーへの展開完了
- 運用監視：パフォーマンス、セキュリティの継続監視
- 定期レビュー：月次・四半期での運用状況レビュー
- 継続改善：利用状況に応じた設定調整、機能追加検討
よくある質問（FAQ）
Q: VPNビジネスプランの平均的な導入期間はどの程度ですか？
A: 企業規模と要件の複雑さによって異なりますが、一般的には以下の期間が目安となります：
- 小規模企業（50名以下）：2～4週間
- 中規模企業（51～500名）：1～3ヶ月
- 大企業（500名以上）：3～6ヶ月
クラウドベースのVPNサービスの場合、オンプレミス型と比較して導入期間を短縮できる傾向があります。
Q: 個人向けVPNと法人向けVPNの主な違いは何ですか？
A: 法人向けVPNは以下の点で個人向けと大きく異なります：
- 管理機能：複数ユーザーの一元管理、権限設定、使用状況監視
- セキュリティ：企業グレードの暗号化、コンプライアンス対応
- サポート：24時間365日の専門技術サポート、SLA保証
- 拡張性：ユーザー数の柔軟な増減、機能のカスタマイズ対応
- 統合性：Active Directory、SAML等の企業システムとの連携
Q: VPNビジネスプランの料金体系はどのようになっていますか？
A: 主な料金体系は以下の通りです：
- ユーザー課金型：月額500円～2,000円/ユーザー
- 帯域課金型：月額10万円～50万円（帯域により変動）
- 定額型：月額5万円～30万円（ユーザー数上限あり）
- 従量課金型：データ転送量に応じた課金
多くのサービスで年間契約による割引（10～20%）が適用されます。
Q: VPN導入時のセキュリティ監査対応はどのように行えばよいですか？
A: セキュリティ監査対応では以下の点を重視してください：
- ログ管理：接続ログ、認証ログの適切な保存と分析体制
- 認証記録：多要素認証の実装状況と認証成功・失敗の記録
- 暗号化証明：使用している暗号化方式の技術仕様書提出
- アクセス制御：ユーザー権限管理の運用状況とアクセス制御リスト
- インシデント対応：セキュリティインシデント発生時の対応記録
多くのVPNサービスプロバイダーが監査対応に必要な証跡やレポート機能を提供しています。
Q: 海外拠点がある場合のVPN選択で注意すべき点は？
A: 海外拠点を含むVPN構築では以下を考慮してください：
- データ主権：各国のデータローカライゼーション法規制への対応
- 現地サーバー：接続品質向上のための現地サーバー設置状況
- 規制対応：中国のGreat Firewall等、国特有のネット規制への対応
- 時差対応：現地時間でのサポート体制の有無
- 通信最適化：海外拠点との通信に特化した最適化機能
Q: VPNの障害時に備えた冗長化対策は必要ですか？
A: 業務継続性の観点から冗長化対策は重要です：
- 回線冗長化：複数のインターネット回線による冗長構成
- サーバー冗長化：複数のVPNサーバーによる負荷分散・冗長化
- 地理的分散：異なる地域のデータセンターを活用した災害対策
- 自動切り替え：障害検知時の自動フェイルオーバー機能
- バックアップ手段：VPN障害時の代替通信手段の準備
多くの企業で可用性99.9%以上を目標とした冗長化設計が採用されています。
まとめ：最適なVPNビジネスプラン選択のために
VPNビジネスプランの選択は、企業のデジタル化戦略とセキュリティ強化の要となる重要な決定です。本記事でご紹介した選択指針と評価ポイントを参考に、自社の要件に最適なソリューションを選択してください。
重要なポイントの再確認：
- 企業規模に応じた適切なプラン選択：過度なスペックは無駄なコスト、不足は業務支障を招きます
- セキュリティとパフォーマンスのバランス：業務効率を損なわない範囲でのセキュリティ強化が重要
- 将来拡張性の考慮：事業成長に対応できる柔軟なサービス選択
- 総所有コスト（TCO）での評価：初期費用だけでなく運用コストも含めた総合評価
- 信頼できるサポート体制：障害時の迅速な対応体制の確保
VPNビジネスプランの導入は一度きりの選択ではありません。定期的な見直しと最適化により、変化する事業環境とセキュリティ要件に継続的に対応していくことが成功の鍵となります。
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